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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)4106号 判決 1959年4月06日

原告 株式会社日本殖産破産管財人 高野弦雄 外三名

被告 三宅治忠 外一名

主文

一、被告等は原告等に対し、連帯して金二十九万六千七百円ならびに内金二十四万三千円に対する昭和二十八年十一月十六日以降右完済に至るまでおよび内金五万三千七百円に対する昭和二十八年十一月二十七日以降右完済に至るまでそれぞれ年六分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告等の負担とする。

三、この判決は仮りに執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

「(一) 訴外株式会社日本殖産(以下日殖と略称する)は貸金業等の営業を目的とするものであるが、昭和二十九年六月十六日午前十時東京地方裁判所において破産宣告を受け、原告等は現にその破産管財人である。

(二) 日殖は右破産宣告前、被告三宅治忠に対し、

(1)  昭和二十七年十二月十八日、金十二万円を、弁済方法として(2) の貸金とあわせて昭和二十七年十二月十八日より同二十八年十一月十五日までに毎回金九百円宛割賦弁済すること

(2)  昭和二十七年十二月二十九日、金十五万を、弁適方法は右(1) のとおり

(3)  昭和二十七年十二月二十九日、金六万円を、弁済方法として昭和二十七年十二月二十九日より同二十八年十一月二十六日までに毎回金三百円宛割賦弁済すること

の約定でもつて、それぞれ貸付け、被告椿国造は右各貸付の日被告三宅の各債務につき連帯保証をした。

(三) しかるに被告三宅は右(二)(1) および(2) の債務につき合計金二万七千円を、同(3) の債務につき合計金六千三百円をそれぞれ弁済したのみでその余の弁済をしない。よつて、原告等は被告等に対し、被告等が連帯して、右(二)(1) および(2) の残元金二十四万三千円および同(3) の残元金五万三千七百円ならびに右(二)(1) および(2) の残元金に対する昭和二十八年十一月十六日以降右完済に至るまで同(3) の残元金に対する昭和二十八年十一月二十七日以降右完済に至るまでそれぞれ商事法定利率六分の割合による遅延損害金を支払うことを求めるため本訴に及んだ。」と述べ、

抗弁に対する答弁として、

「(一) 日殖が昭和二十七年十一月二十三日訴外野本かつより同人所有の家屋(十七坪)を日殖の千葉支店用に供するため賃借するに当り、被告椿が日殖のために連帯保証をしたこと、右賃料が一ケ月金二万円であつたこと、日殖が野本に対し昭和二十九年五月三十一日に右賃借建物を明渡したことは認めるが被告椿が野本に対し金三十九万千九百七十円を支払つた事実は不知、被告等主張の賃貸借契約が期間五ケ月で一時使用を目的としたものであることおよび明渡遅延損害金が金五十三万千九百七十円であつたことは否認する。

(二) 被告等主張の賃貸借契約は期間の定のないものであるから昭和二十九年五月三十一日日殖が賃借建物を明渡するまで明渡義務は発生していなかつたのであり、日殖は昭和二十八年四月二十三日以降同年十一月二十三日までに金十四万円を賃料として野本に支払つたので、結局日殖の野本に対する未払賃料は十二万五千三百三十三円に過ぎない。

(三) かりに被告椿がその主張の金員を野本に支払つたとしても日殖の野本に対する債務は前記のおり十二万五千三百三十三円に過ぎないのであるから、その余の請求に対しては原告等は野本に対し支払い義務なきことをもつて対抗しえたものである。しかるに、被告椿は原告等に対し何らの通知をなさずして野本に前期弁済をなしたのであるから、被告椿が取得した求償権は金十二万五千三百三十三円に過ぎない。

(四) 被告椿は右求償権をもつて被告椿に対する貸金債権と相殺しえないものである。すなわち、日殖の破産宣告後野本は同人が前記賃貸借契約に基ずき日殖に対して有する債権として金三十九万一千九百七十円の破産債権届をなし内金十二万五千三百三十三円が確定したが、被告椿はその後に野本に対しその主張の金員を支払い、よつて前記のとおり金十二万五千三百三十三円の求償債を取得したものであるから、被告椿は破産宣告後他人の破産債権を取得したことになり、破産法第二十六条第二項、同法第百四条第二号により相殺を許されないものである。」

と述べ、

証拠として、甲第一号証、第二号証の一ないし四を提出し、証人馬場義胤、同大川実の各証言を援用し、乙第二号証、第六号証の成立はいずれも不知、その余の乙号各証の成立を認める、と述べた。

被告等訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、請求の原因に対する答弁として、

「第一、二項は認め、第三項を否認する。」と述べ、抗弁として、

「被告椿は、日殖が昭和二十七年十一月二十三日訴外野本かつより同人所有の家屋(十七坪)を日殖の千葉支店用建物として賃借するに当り日殖のために連帯保証をした。右賃貸借契約の内容は期間五ケ月、一時使用を目的とするものであり、賃料一ケ月金二万円、明渡遅延損害金一ケ月金四万円の定めであつた。日殖は右明渡を遅滞し昭和二十九年五月三十一日に至り明渡したので、右約旨による明渡遅延損害金の合計は金五十三万千九百七十円に達したが、日殖はこの内金十四万円を支払つた丈で残額金三十九万千九百七十円を支払わないので野本の請求により昭和三十三年一月二十七日被告椿が連帯保証人として右金額を野本に支払つたので被告椿は右金員について求債権を取得した。よつて、被告椿は原告等に対して昭和三十三年二月十日、右求償権をもつて原告等主張の貸金償権と対当額で相殺する旨の意思表示をなしたので、被告等の債務は消滅した。故に、原告等の本訴請求は理由がない。」と述べ、原告の答弁(四)の主張に対して、「被告椿が原告に対し相殺に供した自働償権は被告椿が破産者の連帯保証人として債権者に対し債務の全額を弁済して共同の免責を得たことにより破産者に対し取得した求償権(民法第四百四十二条)であり、他人の破産債権ではない。故に、本件相殺は、破産者の債務者である被告椿が破産宣告後破産債権を取得したときすなわち第百四条第三号本文に該当するが、同時にその但書すなわち債務者が支払の停止または破産の申立ありたることを知りたる時より前に生じた原因に基くときに該当するので有効である。」と述べ、

証拠として、乙第一ないし第六号証を提出し、証人中村義雄、同野本かつの各証言および被告椿国造本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立を認め、甲第二号証の成立は不知、と述べた。

理由

一、訴外日殖が貸金業等の営業を目的とするものであること、日殖が昭和二十九年六月一六日午前十時東京地方裁判所において破産宣告を受け、原告等が現にその破産管財人であること、右破産宣告前日殖と被告三宅治忠との間において原告等主張の各日に合計金三十三万円につき原告等主張どおりの各消費貸借契約が成立し被告椿国造が被告三宅の右契約に基く各債務につき連帯保証をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、被告等の相殺の抗弁について判断する。

昭和二十七年十一月二十三日、日殖が訴外野本かつより同社の千葉支店用建物として、野本所有の家屋(十七坪)を賃料一ケ月二万円の定めで賃借し、被告椿が日殖のために野本との間に右契約に基く債務につき連帯保証契約を締結したこと、および昭和二十九年五月三十一日、日殖が野本に対し右賃借建物を明渡したことは当事者間に争いがない。

日殖およびその連帯保証人である被告椿が野本に対して負担した債務の額およびその性質については当事者間に争いがあるが、この点は暫くおき、証人野本かつの証言および被告椿本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二号証ならびに被告椿本人尋問の結果をあわせ考えれば被告椿が前記連帯保証契約に基き昭和三十三年一月頃、野本に対して金三十九万千九百七十円を支払つた事実が認められるところ日殖が昭和二十八年十二月以降明渡済まで賃料又は損害金を訴外野本かつに支払つていないこと未払賃料債務が十二万五千三百三十三円存することは原告の認めるところであるので、被告椿は右金員の支払いと同時に、右金額の全部または一部について求償権を取得したものといわなければならない。

そこで被告椿が右求償権(その額の点は暫くおく)をもつて日殖の被告椿に対する前記貸金債権と相殺をなしうるか否かにつき検討する。破産法第百四条第二号は、破産宣告によりその実価の下落した破産債権を取得した債務者が右債権をもつて自己の破産者に対する債務と相殺をなすことを禁止することによつて破産債権者の利益を保護することを主たる目的とするものである(同条第三号は第二号とその趣旨を同じくするけれども破産宣告前にその徴表の存することを知つて破産債権を取得した場合の規定である)が、これを別の側面よりみれば破産宣告により破産者の債権が処分を禁ぜられる結果差押を受けたのと同様の状態となりその後に債務者が他人の破産債権を取得して相殺適状を作り出すことを禁止したものと解せられる。)(民法第五百十一条参照)。しかして、同法第二十六条第二項の規定は、主たる債務者が破産宣告を受け債権者がその全額につき破産債権者として権利を行使した後連帯保証人が右債権者に対して債務の弁済をなした場合には連帯保証人は主たる債務者たる破産者に対して取得する求償権の範囲において債権者に代位してその権利を取得する旨を定めており、かかる場合においては、右連帯保証人の取得する権利は前記同法第百四条第二号の趣意からして、他人の破産債権を取得したものとして同号の適用を受けるものと解するを相当とする。

本件において考察するに、成立に争いのない甲第一号証によれば、野本かつは昭和二十九年九月二十八日、金三十九万千九百七十円について破産債権の届出をなしこれが受理せられたことが認められ、前認定のとおり、右破産債権の届出および破産宣告の後である昭和三十三年一月頃被告椿は破産債権者野本に対して金三十九万千九百七十円を弁済してその金額の全部または一部につき求償権を取得し右求償権について債権者野本に代位してその権利を取得したのであるから、前述の理由により被告椿は右債権をもつて破産者日殖に対し負担する自己の賞金債務と相殺することはできないものといわなければならない。従つて、被告椿のなした相殺(被告椿が昭和三十三年二月十日原告等に対して相殺の意思表示をなしたことは原告等において明らかに争わないので自白したものとみなす)は無効であるから、被告椿のなした相殺が有効であることを前提とする被告等の抗弁はその余の点について判断するまでもなく理由のないことが明らかである。

よつて原告等の請求は理由があるのでこれを認容することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一)

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